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第10日目::ノヴォシビルスク

 未明からたたき起こされた。もちろん飲まされるからだ。もういやだったがソビエト空軍で培ったビボワロフおじさんの押しにはかなわない。マイケル君は夜中だというのにどこかへ遊びに行っていたがその代わりマリインスクのあたりのどこからか乗ってきていたアレクセイ君が部屋に加わった(みんな同じような名前だからここまでくると名前を覚えるのも苦痛になってきた。。)。アレクセイは19歳で空軍の少尉様で、爆撃機の整備をしているそうだ。行き先はユーゴスラビアではなくて実家のカザフスタンのどこか(忘れた)だそうだが、この人はいかにもカザフスタンという顔をしている。ともかくとりあえす上官の命令だから逆らえるわけもなく彼も飲む。ちなみにウォッカ一本750mlの値段は車内販売でも30P程度で、乗客対乗客の売買では40Pが相場になっている。まあ、日本みたいにショットグラス半分くらいで120P換算からするような世界では彼らは生きていけまい。
とにかく飲みっぱなしのビボワロフおじさんと
打たれ強そうなアレクセイ君
   
 さて。私はすべからくへろへろで頭ガンガンで、この旅一番の酩酊期で、残った理性でとにかく何でもいいから清涼飲料水が飲みたかった。できればポカリスエットだ。うーでもそんな液体は周囲3000km以内にあるわけがない。タイガ駅をすぎて買い物できる駅がちょうど無い所を走っていたので、帰ってきたマイケルくんに助けられ、何か売っているだろう前方の食堂車へと向かった。結論。ビールとウォッカしかおいてなかった。マイケル君が親切なことに一等車の車掌から1本10Pで計2本のグレープ系の(確かそんな味)やつを買ってくれた。これには本当に助けられた。しばらく廊下で納まるのを待ちつつ夜が明けてきた。
 それから我々の2等車へ戻りながらわかったことだが、1等車の室内が実に立派だった。広さは2等とそうは変わらないが、2人部屋のゆとりの空間、ベッド周りの調度品そして壁の装飾などがまるで違う。乗ってる人もいい感じーの人々で、朝まで飲んだくれたりしていない。だんだん後ろの車両に進んでくるとムードが変わる。そして5号車へ。ビボワロフさんとアレクセイが座ったままでのべーっとつぶれている。雑居房。列車がやばいときには切り離されてタイタニックみたいになるんだきっと。
 
 やがてロシア号がノボシヴィルスクに到着する。ビボワロフさんが駅舎まで付いてきてくれという。なにやら異様に腰が低い。よく聞き取れなかったが、滞在証明をするために私が「演技」をする事を求めているらしい。「私の後ろで立ってなにも言うな」というあたりが怪しかったが面白そうだから付いていった。例によって荘厳な装飾の跨線橋を渡ると大げさなまでに広い待合室の空間があり、ビボワロフさんと私は兵士が詰めている部屋へと向かった。
 なにやら真剣なやりとりが始まる。さっぱり聞き取れなかったが「サインしろ」と、いつもの「私は大佐だ」が判った。兵士が拒否している。ビボワロフさんが時々私を指さして何か言う。何なんだろう。そのうち「てまえじゃわからん」という雰囲気になって、もっと偉そうな人のいる部屋へ。そしてもめる。この繰り返しが数回続いてようやく滞在証明がすむ頃にはもうロシア号の発車時間1分前だった。私は無事に演技を果たしたらしい。急いでホームへ戻るとビボワロフさんは焦らず騒がずウォッカを買い込んでいたけどもう飲まないよ。そんなこんなでコンパートメントに戻るとお礼の意味で帽子をくれた。


ホームからノヴォシビルスク駅舎。
シベリアの入り口の象徴場所
らしいが十分都会だ。


跨線橋内にて
ビボワロフ大佐と石英脈とロシア号
写真とられるのが好きらしい。
 
 その後は昼寝。車内の暖かさもあって、じとっっと寝ているとあっという間に昼だった。モスクワまであと3000kmを切った。ロシア号はノヴォシビルスクをすぎたあたりから停車駅が減って能率が上がる。オムスク駅で遅めの昼食を買い込み、芋ピロシキを日本から持ってきたレトルトカレーと一緒に食べる。ふたたびカレーはロシア人に勧めても拒否される。その代わりインスタントコーヒーが喜ばれるようだ。私はというとだんだん車掌さんの入れる紅茶にはまってきていて、4P持って頼みに行くとあっさり「もうない」という。いいや。途中の駅で補充してくれるだろう。←しません。食後にデッキで一服していると車掌さんがちょうど車内のゴミを捨てにきた。やるのかなーと思っていると案の定ロシア風に連結器の所から全部捨てていた。
連結器の所。日本の列車より距離があって怖い。
時にはトイレにされている。
   
 そして夜。ビボワロフさんがMIGに乗せてくれる話になって、いやさすがに違法行為すぎるので何度も断るが、彼はあきらめない。「警察に捕まっちゃう」と言うと「俺が大佐だから大丈夫だ」の一点張りで押してくる。こまったなー。結局最後まで心が揺れていたが最後には丁重にお断りして、宴会。つまみは豪華にチキンとチーズと脂身とサラミ。明日フライトの人がいつもと同じペースで飲んでいる。たぶん大佐だからいいのだろう。と言うわけでへたばる。明日丸一日と一晩でようやくモスクワだ。
 

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