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第5日目::だらだら過ごした日

 夜が明けた。サーシャはまだ寝ている。だいぶ楽になっていたのでぼーっとロシア語会話の本なんかを読んでいると、アンドリューが乗ってきた。何かずいぶん静かな感じの人だ。普通はこういう若者はロシア語で「よっ!」とか言う感じで何か言って入ってくるのだが彼はそれがない。こちらから自己紹介して、「殆どロシア語判らないんだけど、よろしく。」と唱える儀式をして、何とか会話し始める。アンドリューは彼もまた権力で、ぶりばりの警察官だ。イルクーツクまで行くと言うので一緒だ。サーシャもその時起きてきて、しばし3人でご歓談の後、サーシャが「友達つれてくる」とかいってどこか行った。その間二人でデッキにタバコ吸いに行き、まあ賄賂じゃないけどマルボロを一箱あげたら俄然機嫌が良くなった。ロシア旅行に1カートンのマルボロは必需品だ。ロシアのタバコは両切りのすんげー安い赤い箱に入ったすかすかの一箱5-6P位のやつと、ピョートルとかゾロタヤなどの10-18P位のが主流で、マルボロは20-25Pする高級品なのだ。でも日本から持ってきたから70P/箱でスーパー大損だけど。
 
 部屋に戻って待っているとサーシャが軍の友達の、というか入りたての部下を連れてきた。ロマニスとアレクサンドルだ。ロマニスの方は名字だか名前だか判らない。ちなみに私の名字は「ほる(XOP)」として名前として認識されてしまう。なぜかいつも必ずだ。ひどいときは「ほりとん」だ。なお、アレクサンドルはいかにもアレクサンドルという感じだ。
ロマニスとアレクサンドル
さてどちらがアレクサンドルでしょう。
   
 そしておきまりの宴会が昼間っから始まる。大人の宴会はショットグラスみたいなのじゃなく、コップで100cc位ずつやる。サーシャは私が弱いことを知っていて、手加減して注いでくれるが3杯くらい行ったところでもうだめだ。ところが内気で静かな警官のアンドリューが豹変した。「おまえのノルマだ」とか言って勧めてくる。うえぇ〜。そういやノルマってロシア語だっけ。とりあえず警察権力→ノルマの密接な関係はロシアでもそうなのだ。本当にゲロゲロ。私の座席は下段なので座ったまま何とか普通にしていると、ロマニスが「金を少しくれ」と言ってくる。なんだなんだもしかしてやばい状況なのかと思ったが、日本のコインがほしいらしい。もはや懐かしくなったにほんの小銭を荷物からじゃらじゃら取り出して、みんなにやる、というと、100円玉より5円玉が人気だった。理由は多分金色だからだ。今度来るときはいっぱい持ってこよう。そうこうしているとアンドリューがなんか言って出ていった。サーシャに彼がなんてしゃべったのか説明してもらうと「別の車両の車掌と密接になかよくしてくる」んだそうだ。。おいおい。残った陸軍の三人はまだタフに飲んでいる。
 
 私はデッキに行って窓から写真など撮りながら過ごしていた。廊下でおばちゃんにつかまり、「日本人、どうやってきたんだい」と聞かれてルートの説明をすると次にさらに難しい文章で言われて限界を超え、「わからん」というと、つぎに私の靴をさして「ダンロップ」と言う。ダンロップのトレッキングシューズだったのでああそうかと思って私も「ダンロップ」というと、それが別れの挨拶として成立しておばちゃんは去っていった。ロシア号の中ではこういう奇妙なコミュニケーションばかりだったが、我ながらだんだんロシア語が口から出るし聞き取れるようにもなってきていたのがうれしかったのを覚えている。
シベリアな感じ。何となく車窓より。
他の風景の写真
   
 やがてロマニスとアレクサンドルも帰り、サーシャも降り仕度を始めた。サーシャはチタ出身なのだが今度の仕事は地元に近いんでうれしいんだそうだ。21歳で年下なのに軍服に着替えてみるとすんげー大人で、実際大人で結婚してるし子供ももうすぐで、要するにいったい何なんだおれは。
 彼は別れ際「シェスリーパ」とか言った。ん?それは会話集にも載って無かったぞ。何だろう。とりあえず私も「シェスリーパ」と言ってみた。サーシャは笑って降りていった。後で調べたら「いってらっしゃい」と言う意味だった。うん。笑われる道理が通っている。筋も通っている。ああ。なんて、なんてああはずかしい。アンドリューはまだ帰ってこない。もういいや。
 
 サーシャと入れ替わりでたたた待望のおねいさんが乗ってくる。メーテルって感じではなかったがとてもきれい。でも結婚してる。ロシアでは結婚指輪は右手にするらしい。もちろん話しかけられなかった。そしてそのすぐ後くらいにアンドリューが帰ってくる。静かなアンドリューはさらに静かな状態にもどった。その後は日が暮れて私も酒が抜けてないし、寝た。深夜もう一人おばさんが乗ってきたようだ。「ああまた4人になったな」などと思いつつほんとに寝る。
 何でも良いがロシア号は、運転手によってほんっっっとに揺れる。日本で見た誰かの紹介文でシベリア鉄道をトランポリンにたとえた人がいたがその表現は適切だ。タイミングを合わせたら飛べそうだ。ま、明日の夜はイルクーツクで降りて普通のベッドで寝れるわけだ。
 

 

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